「刑事コロンボ」のエピソード「パイルD3の壁」(原題: Blueprint for Murder (1972))

Lieutenant Columbo

パイルD3の壁

 

あらすじ

企業経営者で多額の資産を持ったウィリアムソンは自分の留守中に再婚した若い妻に取り入った建築家のマーカムが出資を承諾させ巨大な建築プロジェクトを勝手に立ち上げた事を察知した。

慌てて帰国したウィリアムソンは自分の名を冠する都市計画に怒り狂いマーカムに計画の中止を命じる。

資金提供を拒否され計画も中止に追い込まれそうになったマーカムはウィリアムソンの殺害を計画する。

しかしそこには大きな問題があった。

それはウィリアムソンが死亡すると彼の若い後妻は年金を受け取るのみで都市計画に回す資金はどちらにしても引き出せなくなるのだ。

そこでマーカムが考えた計画は?

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ライトな刑事物としてみれば面白いが、刑事コロンボでやるにしてはやや凡庸な作品

死者の身代金だと犯人の性格を逆手に取ったり、パイルD3と同じ脚本家が書いてるもう一つの鍵だと犯人と被害者の人間性が劇中段々浮き彫りになって影響を及ぼしていったりと伏線回収を易々とやってのける優秀な脚本が多いのに対して、この作品はうーんそもそもプロットからやり直した方がいいなあってできです。

そもそもピラミッドに設計者が埋められる、盗掘があるってあたりで犯人と被害者逆にしないとならないですよね。

マーカムさんはパイルD3をウィリアムソンの墓標にしようとしたがコロンボ警部に阻止された、じゃあラストはこれはウィリアムソン氏の墓標なんかじゃない(吹き替えはここで小池朝雄さんのタメが入ってから少し低いトーンにしてもらって)「貴方の墓標だ」ってピーター・フォークに言ってもらって「貴方ならなんて刻みますか?」って聞かせるとかね、ギリギリそんなふうにしか救えないんじゃ無いかなあ?

そこでマーカムさんの台詞も出てこないですよ、だってマーカムさんの造形意味わかんないんだもん。

これ企画の段階で失敗じゃ無いかなあ。

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設定が杜撰で犯行の概要も焼き直しと残念な構成

今回は殺人犯のマーカムさんがあんまり頭がよくないのが残念です。

夫人を籠絡して資金を調達したところで夫のウィリアムソンの承諾を得なければこの事態になるくらい子供でもわかります。

また家一軒建てる資金を出させるのだって多額のお金なのに、マーカムが計画したのは都市計画です。

つまりビルだけでなくその周辺の開発まで計画していた。

そんな大金を若い妻から勝手に引き出してその計画が事後報告で承認させちゃえばいいや、と思って行動してるマーカムがこれだけの計画を立案できるという仮定に基づいたこの物語はそもそも立ち上がりからしておかしいのです。

さらにコロンボシリーズで最初の犯行概要の焼き直しが行われた点もがっかりします。

マーカムは殺害したウィリアムソンを生きているように見せかけ資金を引き出そうとします。

これは「死者の身代金」で殺害した被害者がまだ生きているように見せかけて身代金を請求したあの第二話の焼き直しです。

この手のことはこの話に限らず徐々に散見されるのはそんなに何種類もパターンがあるわけでもないし致し方ないのですが、その最初の一本がこれだったんだなあと改めて思いました。

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見どころ

とはいえ、コロンボ警部と犯人の戦いはとても見応えがありますからドラマ作りにかけては脚本家の方はなかなかいい腕の方です。

ラストのコロンボ警部と犯人の対決も見応えがあります、あれれこれは・・・・って展開になりますからここ面白い。

それに役所に許可を取りに行かなきゃならなくなるコロンボ警部が役所でたらい回しにされてるわけじゃないんですが、あっちのフロア、こっちの窓口と歩き回り、しかも長蛇の列に並ばされてうんざりってシーンがあってそこらあたりのコミカルさも楽しいです。

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ざっくりこの脚本の構造

マーカムさんは功名心の塊?巨大プロジェクトを動かし有名になり、大学で講義をして生徒からチヤホヤされたい、自分がそうだからウィリアムソンシティーなんて名前で釣ったらウィリアムソンが釣れると思った?

でもウィリアムソン氏は金持ちの道楽だけで生きてる人ではなく事業家ですよ???

釣れるわけねえだろ!

マーカムさん全然わかってねえ、そんなんだからオメーは女にモテないんだよ!脚本家はマーカムさんをそういう設定にしてるって理解すればいいの???

だったら後妻や女性秘書があんなに懐いてるのは何?

事件後の刑事に対する対応も冷静沈着で旧に有能になるのもなんだか「辻褄が合わない」んですよね。

不可解な人物造形なんだよなあ。

ラストの謎解きシーンで逆転劇があるのは大枠の構造は映画スティングで一回やったあの手続きですから面白いけどそれはスティングが良くできていたって話であってオリジナリティがあるかっていうとそうじゃない。

なんていうか統計的にこういう感じの人を出してこういう並びにしたらなんとかいけんじゃね?っていう脚本家さんの視聴者ってこんなもんだよねって意図があるってことなのかなあ?

脚本家さんこの話だけはやっつけかなあ?

構想の死角書いた人なんだけどなあ。

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日本人女性の登場

実は劇中にウィリアムソンの先妻のゴールディ元夫人が登場し重要な役割を演じるのですが、この元夫人の寝室でマッサージをしている女性。

この人、コロンボ警部は吹き替えで「東洋の女性」って表現しますが実はこの人、日本語話してるんです。

つまり日本人女性って設定なんじゃないかなって思いますね。

ただ面白いことに、この日本語を話す女性、日本語下手なんです(笑)。

ネイティブな日本語話せないんですね、イントネーションが日本語覚えた日本以外の国で暮らした東洋人って感じなんですよ。

でも調べてみるとお名前がどうやらミドリさんとおっしゃる、本名が「ダイアナ・ミドリ・アリモト」さん1941年1月29日カリフォルニア生まれっぽいんですよ。

日系人の女優さんなのかなあ?

刑事コロンボご出演前に数本の映画にも出演されてらっしゃいます。

今もお元気でらっしゃるのかな?